『PORTFOLIO 采/綴 AYA/TOJI 大阪芸術大学 染織 1999-2000』
 

大型のA3判、総80頁。学生作品カラー図版162点、モノクロ図版70点のほか、技法解説、エッセイ、研究報告など掲載。一部英訳文掲載。巻末には工芸教育研究会主催のセッション「大学と工芸ー『装飾』をめぐってー」(パネリスト: 鶴岡真弓・藪 亨・山口道夫・柳原睦夫)の記録が掲載されている。2000年 3月22日、大阪芸術大学工芸学科染織研究室内・特色ある教育研究の推進「芸術の発表・表現とその社会的実践」担当部局発行。編集委員: 福本繁樹・小野山和代・冨田加那・山本将史ほか、翻訳: Meredith McKinney、アートディレクション:石浜寿根

表紙掲載作品 左より、濱久仁子「puff-puff planet あついスープ」(部分)、内田晴子「月光 」(部分)

『PORTFOLIO 采/綴 大阪芸術大学 染織 1999-2000』は非売品ですが、限定部数を工芸教育に関心ある方にお届けする用意をしています。発送諸経費として1000円分の郵便切手同封の上、専門分野名と希望理由、郵送先を明記して「585-8555 大阪府南河内郡河南町東山 大阪芸術大学染織研究室内『PORTFOLIO 采/綴』出版部局」宛、郵便にてお申込みいただければ、出版部局より発送いたします


目次

序論

2

大学院芸術制作研究科 制作発表

6

4回生

制作発表

10

3回生

制作発表
組織の表現〈織り組織、組み組織〉

26
39

2回生

織り〈綴織と絣織〉
型染〈送り型・糊防染と、合わせ型・捺染〉
ろう染〈型紙・まきろう技法と、堰出し技法〉
染織実習1〈インド更紗〉

40
42
44
46

1回生

CONSTRUCTED TEXTILES〈布の造形〉
CONSTRUCTED TEXTILES〈布の表情〉
CONSTRUCTED TEXTILES〈繊維の表情〉

48
50
52

ESSAY

「大学で何を学ぶか」
「作品タイトルと私のこだわり」
「人はなぜ身体を装うのか、何のために飾るのか」
「こんな夢をみた」

56
59
61
62

大学院芸術文化研究科 研究報告

66

特集・セッション―大学と工芸「『装飾』をめぐって」
 パネリスト: 鶴岡真弓・藪 亨・山口道夫・柳原睦夫

70

学生一覧・学生一言コメント

78

編集後記

80


掲載作品例(画像が印刷物ほど鮮明でないことをご容赦ください)


P.6-7掲載
大学院芸術制作研究科2年 加賀城 健 KAGAJO Ken 
Stroke plus Frottage−His Heart was melted at the sight of the child's tears− 90×360cm 綿/糊染・拓本技法
◆ホームページの背景は、加賀城 健の作品の部分から構成しました

P.10掲載
4回生 阿知波 翠 ACHIHA Midori 
散歩 170×130cm(着物部分) 絹/ろう染

P.12掲載
4回生 井上志保 INOUE Shiho 
溜息の必要性 200×330cm 綿、羊毛/ミシンワーク

P.13掲載
4回生 内田晴子 UCHIDA Haruko 
月光 250×370cm 麻/ろう染

P.16掲載
4回生 門田綾音 KADOTA Ayane 
雨夜 175×120cm 綿/経緯絣
作者のホームページ AYANEORI

P.20掲載
4回生 長尾龍祐 NAGAO Ryusuke 
SABI「対の関係」(2点組) 各198×140cm 綿/鉄錆染着

P.23掲載
4回生 南 陽子 MINAMI Yoko 
千年一夜 183×332cm 麻/ろう染

 


 『PORTFOLIO 采/綴 大阪芸術大学 染織 1999-2000』掲載序文より

「何を創るか…、染織とは…、染織とテキスタイル…」 福本繁樹

何を創るか‥‥‥ 染織のジャンルは多彩である。われわれは染織で装い、染織で環境を飾り、染織で表現する。生まれて死ぬまで常に染織で身体を包まれている。染織と人間の関係ほど密接で長い付き合いのものはない。そのような染織に作者独自のメッセージを込めようと試みるのが、染織コースの授業である。多彩な染織造形は、立体的なオブジェや平面的なタブローに、つまり一種の彫刻や絵画ともなるが、彫刻や絵画とちがうのは、素材・技法・制作プロセスに密接にとりくむところであろう。織り、ファイバーワーク、ろう染、糊染め、絞り、型染、手描き染め、あるいは各種繊維素材、天然染料、化学染料などなど、染織ジャンルの可能性は広範囲だが、なかでも染織ならではの創造に重点をおきます。糸や布や染料に触れながら、五感をフルに発揮して造形・デザインします。古きをたずねて新しきを知る、古い伝統をまもるのではなく新しい伝統を築く意気込みで創作にとりくみます。現代の国際化、情報化社会を視野に入れ、世界に発信する新しいクラシックや、活力ある若い伝統を創りだします。
染織とは‥‥‥ そもそも「染織」とは何だろう。われわれが今日用いている「染織」という語の構造を掘り下げると、日本人の造形志向や日本文化の基層構造について、じつにおもしろいことが分かってくる。
 しかし困ったことに、「染織」の語にどのような意味構造があるのか辞書で調べてもなかなか分からない。『広辞苑』には「染織」について「染めることと織ること」と一行にも満たない表記しかなく、あたりまえすぎて説明にならない。『染織大辞典』には「染織」の項目がなく、百科事典には「染色」についてはバカに詳しくても、やはり「染織」の項目がなかったりなど、「染織とはいったい何ぞ」と問うてみると、意外にも明快な解答が得られず愕然としてしまう。「染織」がごく基本的な語であることを考えると不可思議な事実だ。しかたがないので、「染織」の語の解釈をここで試みたい。
 技法や制作行為の側面から「染織」を「染めることと織ること」とされるが、またそのことによってできたモノとしても解釈できる。この場合の染織は「模様のある布」のことである。日本ではこの染織(布)を二つの方法でつくると考える。つまり、糸を織ってから染める「後染め」と、糸を染めてから織る「先染め」である。それは模様染めと模様織りのことで、狭義の「染め」と「織り」のことでもある。この場合の「染め」(後染め・模様染め)と、「織り」(先染め・模様織り)の双方をあわせて「染織」とするわけだ。このように、布に模様があることを前提として、その模様を生み出すプロセスに目を向け、その方法が染めと織りの二種だとするとらえ方は、世界広しといえども日本独特のものだ。
 模様のある布をつくる方法は、たとえばヨーロッパで多彩に発達したニット、フエルト、レース、ニードルワーク、パッチワーク、キルト、アップリケ、プリントなど、染めや織り以外にもいろいろあるが、「染織」の語にはこれらを含む意味がない。染織以外で日本で重視されるものは刺繍くらいで、「染織繍」の語がときには用いられるくらいだ。
 このようにニット、フエルト、レースなど、織布以外の布を認識外としている日本の「染織」文化は、布を平面的な一枚の矩形のものであるべきだと考え、布に鋏をいれることを嫌い、とくに布を曲線的に切ることを避け、切り刻んだ布を再構成するパッチワークなどを良しとしない。もちろん例外はある。たとえば切り嵌めや袈裟などのパッチワークがないことはない。しかし、ここでは文化の基層構造を見極めるため、例外に惑わされてはいけない。
 これらの事実を考察すると、多彩な絵画的指向を示す染織への芸術的価値観、布を物質的にできるだけ加工せず一枚の布のまま風合いを大切にしようとする触覚的美意識、ほろびやすい布に絢爛たる芸術を栄えさせたほろびの美学、多彩なミクストメディア(混合技法)よりも一定の技法に熟練を求める純一無雑性、足し算的造形によって重厚さを求めるよりも、引き算的造形によって洗練を求める、そぎおとしの美学などが浮かび上がってくる。このような日本人の感性と造形意識によって育まれた、世界に冠たる日本染織文化の構造が「染織」という一語に集約されている。
 「染織」の語の構造が、近代になって微妙に変化してきただろうことも考えねばならない。近代になって研究や出版が盛んになり、染織に関するさまざまな技法が理論的に整理され、分類方法も統一された。また業界において「先染め」「後染め」という言葉を多用するようになったこと、大学の染織授業や、染織技法解説書などで染織を「織り(先染め)」と「染め(後染め)」にシンプルに二分割することが一般化したことも、今日までの「染織」の意味構造の変化に影響を与えただろう。日本人の特殊な染織造形指向が、二種の布に集約されることとなり、「染織」の語の意味を簡潔で明快なものに変化させた。
染織とテキスタイル‥‥‥ 元来日本人は、論理的・抽象的なとらえ方が苦手で、ミクロをもとにしてマクロを見るその資質は、マクロからミクロを見る西洋人によく比較される。だから、きわめて論理的、構造的な意味合いがある「染織」は、日本語では珍しい例である。そこで、論理的体系がしっかりしたヨーロッパ文化の「テキスタイル」と比較することが可能となって、両者の構造の相違が明白となる。
 ヨーロッパのテキスタイル文化に比較して、日本の染織文化は対照的な性質を示す。ヨーロッパではテキスタイルのほとんどが布地素材にすぎず、タピスリーやファッションが「ファイン・アート」として認められる。しかし日本ではごく身近な染織布にも「ファイン・アート」としての芸術性が求められてきた。日本の染織の特徴を三つあげるとすれば、まず、ニードルワークなどヨーロッパの構成的な布造形の多彩さに対して、一枚の平面的な矩形の布にこだわり、そこに「染め」や「織り」の技法を駆使して絵画的な表現を試みてきたこと。次に、模様染めを「プリント」とするヨーロッパに対し、正倉院に伝存する三纈(夾纈、絞纈、臈纈)をはじめとして、多彩な防染技法による模様染めを各時代に発達させたこと。そして服地は無地を基本としていたヨーロッパに対して、染織の芸術水準を「日本美術の粋」といわれるほどに高め、メジャーな芸術ジャンルに確立したことがあげられる。
 染織文化とテキスタイル文化の構造的な相違を示すキーワードを一覧表に書き込んでみた。一覧表をよく検討すれば、きわめて興味深い相違の数々が分析できよう。その相違はひとり染織についてのみでなく、日本文化全体の構造を理解するうえでも有効なものだろう。
 今日では「染織」の語の代わりに「テキスタイル」の語が好まれて用いられることが多いようだ。国際化がすすみ、世界の染織文化が盛んに交流する。しかし文化には故郷と時代があり、そのちがいがあれば産物の‘メニュー’ひとつとっても異質なものとなる。とくに染織文化は、各民族の地域と歴史に深く根づいて発達しただけに、民族間の構造的なちがいが顕著にあらわれる。少なくともテキスタイル文化では「コンストラクテッド・テキスタイル(構成テキスタイル)」という分野が多彩で重要視されること、防染技法がプリントの一種だとされることくらいは認識する必要があると思うのだが、日本で「テキスタイル」の語が一般化する一方で、この事実が十分承知されているとは思えない。(福本繁樹)

 

染織とテキスタイル

染織

染め(後染め) : 模様染め、染め模様の布

織り(先染め) : 模様織り、織り模様の布

   1.施文工程が、染めか織りかで分類。制作のプロセスに注目

   2.平面的な矩形の布が基本。豪華な文様。直線断ち

   3.引き算 (そぎ落とし) の造形

   4.手づくりによる模様染め技法の発達

   5.生地に風合いを重視、触覚的美意識

テキスタイル

構成テキスタイル

繊維の構成 (インターレーシング) : 織り、ニット、フエルト、ラグ、レース、バスケタリー

布と繊維の構成 : ニードル・ワーク、パッチワーク、キルト、刺繍、アップリケ

プリント

捺染技法 : 木版, 銅版, スクリーンプリント

防染技法 : 糊染め、ろう染、絞り, 板締め

   1.構成(立体造形)、印刷(平面造形)という技法のちがいにより分類

   2.立体的で複雑な構成に価値観。服地は無地が主流。曲線断ち

   3.足し算の造形

   4.機械量産によるプリントを開発

   5.生地にドレープ性を重視、視覚的美意識

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