


A4判、各総52、80、62頁。学生作品カラー図版のほか、制作コンセプト、学生プレゼンテーションイメージ構成、教員の紹介など掲載。「大学院 工芸」の巻末には工芸教育研究会主催の「鼎談・大学と工芸」(パネリスト:
宮島久夫・中村錦平・柳原睦夫)の記録が掲載されている。1999年
3月20日、大阪芸術大学工芸学科染織研究室内・特色ある教育研究の推進「芸術の発表・表現とその社会的実践」担当部局発行。編集委員:
福本繁樹・伊藤隆・小野山和代ほか、アートディレクション:石浜寿根、印刷・製本:アート印刷株式会社
『PORTFOLIO 采/綴
1998-1999』(3册セット)は非売品ですが、限定部数を工芸教育に関心ある方にお届けする用意をしています。発送諸経費として1000円分の郵便切手同封の上、専門分野名と希望理由、郵送先を明記して「585-8555
大阪府南河内郡河南町東山 大阪芸術大学染織研究室内『PORTFOLIO
采/綴』出版部局」宛、郵便にてお申込みいただければ、出版部局より発送いたします
「今後のものづくり」
伊藤
隆
コンピュータの出現により、制作のあり方そのものが変化しつつあります。工芸の世界にとって、この変化は無縁ではいられないのです。社会のなかへのパソコン導入によるコンピュータの個人化傾向はもはや止められない勢いを呈しているし、かたやネットワークの急速な拡大により個々のコンピュータを結んでゆく流れも止められない、というのが現実です。こうした時代の動きを眺めていると、工芸の世界も遅かれ早かれ、この急激な変化に取り込まれることは必至と言えます。アイデアや工夫を思いついたら、コンピュータをそばに置いてエスキースをしてみる状況が目の前に迫っています。高度な表現力や創造力を発揮できる場が用意されると言うことにつながっていきます。LANのつながりにより他領域と芸術との交流も盛んになるでしょう。今後コンピュータと、ものづくりがどう付き合ってゆくべきか考えなければなりません。
その意識をしっかりもって、自分が表現したいことは何なのか、それは何で表現できるのか、素直に自己と対面することで、おのずと的確な出会いが生まれ、表現力も身につくものです。そして人間一人ひとりが人格を有するように、作品にも特徴があり、固有の主張があります。これからの時代は、あらゆるモノが多様化し、価値観が要求されるだけに、国際性と独自性、アイデンティティが重要になってきます。人々の心に語りかけてくれるような主張や、風格のある造形こそ必要なのです。工芸にとって新しい芸術表現を追求するためにも過去の遺産や技術についてしっかりと学ぶことが大切です。
一枚の薄い金属板を切断するにも、糸ノコで切る、金切りハサミで切る、押切りで切る、溶断で切る、ジグソーで切る方法など多様にあります。最適な方法がどれであるかを見極め、正確に道具を選び、的確に使いこなせるにはかなりの時間と経験が必要になります。切ることを考えたら、それをゆっくり自分の思った形にしたいのか、速く切りたいのか、それだけで道具も技法も変わってきます。技術とは手先技術だけでなく頭の中でイメージを考えて、プロセスを発見し、実際に作り進めてゆく力でもあるのです。素材と向き合ったその時から出発点があるかもしれないのです。工芸においてモノをつくり出す、技術をほどこす、作品を組み立ててゆく、質を高めた作品を創る。一見地味なように思える工程は、いかに社会が進歩しても決して忘れることのできない基本だとおもいます。造形を志すことは自己を豊かな世界に解放するとともに、社会とかかわり合いながら文化の創造に参加する事でもあるのです。
どの時代にあっても、人間が本能としてもっている基本的な創造行為は、決して失われることもなく、たとえニューメディアやコンピュータによって社会や生活が著しい変貌を遂げても、ものづくりの行為は簡単に変わることはないでしょう。
「自信を持って日本の新しい工芸を」
福本繁樹
大学進学率が五割に迫る伸び率で、大学の大衆化が問題とされているが、なかでも芸術系大学の大衆化が顕著だ。現在すべての大学が本気でプロの芸術家を養成すれば、世の中に芸術家があふれて不都合である。しかし幸か不幸か、その心配にはおよばない。現実に芸術大学への進学率増加の割には、輩出される芸術家の数は増えてない。芸術大学の大衆化が一気に進められた結果、教育の内容も大衆化されたのだろう。
先年ロンドンに芸術系大学を訪ね、私が専門とする染織専攻コースを中心に授業を取材した。教室で写真撮影許可を教官に求めると、「プロ意識の学生は作品のアイデアが盗まれるのを恐れます。承諾を得ないかぎり撮影禁止です」と厳しい表情でこたえた。日本との意識の違いに驚き、双方の教育方針の違いをみた。
イギリスでは個性教育が重視され、大学入試のあり方にもそれがうかがえる。受験生は高校の卒業試験の成績により受験校を選び、数点の自作品提出と、約30分間の面接を受けるのが一般的だ。面接では適正、資質、自覚、意欲などが問われる。しかしこのような入試形態は日本ではなじまない。提出作品が受験生本人のものかどうかが疑われ、主観による面接採点は不公平だと非難されるからだ。だがこの心配はイギリスではナンセンスである。不正入試で困るのは、自分の実力に合った的確な指導が受けられない学生本人だし、教授が責任をもって受験生の資質を判断しなくてどうするのかと、一笑に付される。
日本の芸術系大学の入試は、学力と実技力を客観的に採点する方法が一般的である。受験生の才能に質(資質)と量(力量)があるとすれば、イギリスでは質、日本では量が判定基準だといえるだろう。制作授業においてもイギリスでは学生独自のアイデアやコンセプトを重視し、それを作品化するために素材を選択し技術指導を受ける。日本の工芸教育では逆に、素材の講義や技術指導を受けてから独自の創作に取り組む傾向が強い。
芸術に大切なのはやはり「質」でありオリジナリティだなと、イギリスの個性教育に感じ入るものがあったのだが、じつは問題は単純ではない。欧米の染織国際展では1980年代から顕著なマンネリ化がみられるからだ。教育現場ではオリジナリティが重視されているのに、第一線の作家にオリジナリティが枯渇してきているという矛盾をみせる。ところが発達した日本の工芸分野から、高度な技術に裏打ちされた独自の作風が発表され、世界から評価を得る。
日本的工芸造形は、理性的なアイデアやコンセプトが「あいまい」ではある。しかし素材を生かし、技法を開発し、制作プロセスの必然性をふまえた「工芸的造形」は、すなわち自然の生態の摂理を生かそうとするエコロジー的思考といえるだろう。それは人間の理性を絶対視するヨーロッパのモダニズム原理と好対照をなす。
今日国際化がすすめられる一方で、民族性や文化のアイデンティティが再認識され、異文化間相互理解の重要性が説かれるようになった。欧米中心の文化的価値観に対する批判が高まり、一方で民族性を生かしなおそうというポスト・モダニズムの企てが顕著になった。今自信をもって日本の新しい工芸を推進し、それを世界に発信するときではないか。
『PORTFOLIO
采/綴 大阪芸術大学大学院 工芸 1998-1999』の掲載作品例
(陶芸5名、染織3名、金工1名、計9名によるプレゼンテーションより)
|
|
大学院芸術制作研究科2年 岡林あおい OKABAYASHI
Aoi |
|
|
|
大学院芸術制作研究科2年 亀井洋一郎 KAMEI
Yoichiro |
|
|
|
大学院芸術制作研究科1年 植田麻由 UEDA
Mayu |
|
|
|
大学院芸術制作研究科1年 太田稚子 OTA
Wakako |
『PORTFOLIO
采/綴 大阪芸術大学工芸学科 染織 1998-1999』の掲載作品例
(染織コース60名によるプレゼンテーションより)
|
|
4回生 石井麻貴 ISHII
Maki |
|
|
|
4回生 冨田加那 TOMITA
Kana |
|
|
|
4回生 藤井奈津子 FUJII
Natsuko |
『PORTFOLIO
采/綴 大阪芸術大学工芸学科 金工 1998-1999』の掲載作品例
(金工コース50名によるプレゼンテーションより)
|
|
4回生 田村香保 TAMURA
Kaho |
|
|
|
4回生 福岡 敦 FUKUOKA
Atsushi |
|
|
|
4回生 富田千香子 TOMITA
Chikako |
出版の主旨
「芸術の発表・表現とその社会的実践」
本書は、平成10年度「特色ある教育研究の推進」の課題「芸術の発表・表現とその社会的実践」の教育研究事業の一環として出版されたものである。その事業の意義を次のように考える。
芸術活動は作者と作品のあいだの創作と、作品と観者(享受者)の関わりによって成立する。作者は創作ばかりではなく、自作品がいかに観者(享受者)に受け入れられるかを常に関知せねばならない。一方今日では経済発展と情報化にともなって作家・作品・展覧会などが飛躍的な増加をみせ、芸術のインフレーション時代を迎えている。いかに優れた芸術作品でも、観者の目に十分触れることなく埋もれてしまうことがある。そこで現代社会の状況に即応した作品発表活動が重要となる。しかし芸術大学の授業では、創作の授業に重点がおかれ、作品の発表・表現活動(プレゼンテーション活動)まで手がまわらないのが現状である。
プレゼンテーション活動には、まず自作品に対する自己評価の的確さを必要とし、創作の専門知識のみでなく、芸術界の最新動勢の把握、国際的視野、理論的裏付け、視覚的演出、情報メディアの活用、社会的ニーズの把握などが必要である。また大学や教室内にこもった授業では実効に乏しく、実社会に発表の場や有効なメディアの活用が望まれる。このようなプレゼンテーション活動の授業が大学においてますます重要視されるが、多方面の指導要素を必要とする運営は容易でなく、その教育研究が、国際化・情報化社会に対応したものとはなっていないのが現状である。
当教育研究計画は、芸術の表現・発表活動の教育研究を、さまざまな企画を盛り込み、社会的実践のもとに取り組もうとするものである。国際的視野と、学際的な教育研究が期待され、各学生が創造性、責任感、連帯感などを涵養できるものと期待する。
現代工芸分野は他の造形ジャンルに比較して国際交流が盛んで、染織造形や陶芸を中心として国際展や国際セミナーが世界各地で開催され、レベルの高い日本の工芸は世界をリードしてきた。本学教員はこれらに積極的に参加してきた。これからの国際化時代には各国、各民族間の文化の違いについての相互理解が必要で、より積極的な文化の発信が望まれる。設立2年目となる本学大学院の授業を中心に、伝統に根ざした工芸分野が率先して今回の研究課題に取り組むことは意義深いことだと考える。